Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第4弾です。
こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。
ちなみに法務省Q&Aの出典はこちらです。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm
動画はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=ek6NgaWhQ_M&t=304s
Q4 日本では,長期の身柄拘束が行われているのではないですか。
A4
【法務省の回答】日本では,どれだけ複雑・重大な事案で,多くの捜査を要する場合でも,一つの事件において,逮捕後,起訴・不起訴の判断までの身柄拘束期間は,最長でも23日間に制限されています。
さらに,被疑者は,勾留やその延長の決定に対して,不服申立てをすることもできます。
【我々の回答】23日間は,長くないですか?逮捕された後は,外部との連絡手段は極度に限定されます。その結果,職を失う人もいます。接見等禁止決定が付され,家族とも面会をできなくなってしまうこともあります。さらに,法務省は「起訴・不起訴の判断までの身柄拘束期間」としていますが,起訴後も当然のように勾留されます。保釈許可決定がでても,最低でも150万円以上の保釈保証金を裁判所に納めることが相場になっており,決定された金額を納めなければ釈放されません。
【法務省の回答】起訴された被告人の勾留についても,裁判所(裁判官)が証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれがあると認めた場合に限って認められ,裁判所(裁判官)の判断で,証拠隠滅のおそれがある場合などの除外事由に当たると認められない限り,保釈が許可される仕組みとなっています。
このように,日本の刑事手続における身柄拘束の期間は必要かつ合理的なものとなっています。
【我々の回答】刑事訴訟法は,「おそれ」と「相当な理由」を使い分けています。刑事訴訟法60条では,罪証を隠滅する/逃亡し又は逃亡すると「疑うに足りる相当な理由」と規定されています。他方,刑事訴訟規則143条の3では,逃亡する/罪証を隠滅する「虞(おそれ)」と規定されています。勾留の要件は,単なる「おそれ」ではなく,だれが見てもその資料に基けば大体罪証隠滅又は逃亡するだろうと思う程度の「相当な理由」を要求しています(※1)。
法務省や裁判所が,立法過程を無視して「相当な理由」と「おそれ」を読み変えてしまっているのは大問題ではないでしょうか。
実際に,勾留請求に対して,多くの勾留決定がなされています(※2)。
起訴後,被疑者勾留が被告人勾留に切り替わる際には,裁判所による独自の審査はありません。自動的に,捜査段階の被疑者勾留が起訴後の被告人勾留に切り替わり,継続することが一般的です。
また,起訴後に保釈されることが原則であるはずです。しかし,証拠隠滅の「おそれ」を理由に保釈されにくいという現状があります。証拠調べが終了した後でも,証拠隠滅の「おそれ」があることを理由にされて,保釈請求が許可されないことも珍しくありません。平成30年度の起訴後勾留の期間は,次のグラフの通りです(※3)。
参照資料
※1 第2回国会 衆議院 司法委員会 第40号 昭和23年6月24日
「124 榊原千代
○榊原(千)委員 これは警察官などによつて行われた場合には、あとで損害賠償というようなこともしていただけますけれども、にせ警察官などの場合には、迷惑をこうむるのは國民だけであろうと思いますから、その場合にはよくよく眞偽のほどがわかるように、必ず警察官なら警察手帳というようなものを示すということにしていただきたいと思います。 次にお伺いしたいのは第八十九條の第四号「被告人が罪証を隠滅する虞があるとき。」という規定でございますが、これは裁判官の主観的な判断によるものでございましようか。お伺いいたします。
125 野木新一
○野木政府委員 判断は主観的と申しましようか、裁判官が判断することになるわけでありますけれども、その判断は少くとも合理的でなければならない。その資料とするところのものは、だれが見てもその資料に基けば大体罪証を隠滅すると認められる場合というような場合でありまして、そういう場合においてはある意味で客観的と申せるかと思います。」
※2 2018年 検察統計 統計表 最高検,高検及び地検管内別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員 -自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く-
※3 平成30年度 司法統計 通常第一審事件の終局総人員 罪名別処遇(勾留,保釈関係)別 地方裁判所管内全地方裁判所・全簡易裁判所別
次回は,
「無罪推定の原則」とはどのような意味ですか。
逮捕や勾留を繰り返して長期間にわたり身柄拘束をすることは,この原則に反するのではないですか。
です。