刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q8(拘置所での生活環境)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第8弾です。

こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。

法務省Q&Aの出典はこちらです。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm

動画はこちら。

Q8  拘置所での生活環境はどのようなものですか。

【法務省の回答】 拘置所においては、被収容者の人権を尊重するため、居室の整備、食事の支給、医療、入浴などを適切に行っています。
居室については、証拠の隠滅の防止を図るため、できる限り単独室としています。採光・通気にも配慮された構造となっており、ベッドを設置している居室もあります。
医療については、社会一般の医療の水準に照らし適切な措置を講じています。例えば、入所時の健康診断や診察において、医師が健康状態を把握し、その時点における健康状態に適した薬の処方を行っています。被収容者が入所時に所持していた薬については、その成分の検査に時間を要するなどの理由から服用は認めていません。
入浴については、被収容者の健康を保持し、施設の衛生の保持を図る観点から、1週間に2回以上実施しています。夏季などには、必要に応じて回数を増加させています。

【我々の回答】

• そもそも「拘置所」って?
日本では、刑務所、少年刑務所及び拘置所を総称して、「刑事施設」と呼んでいます。このうち、拘置所は、主として刑事裁判が確定していない未決拘禁者を収容する施設です。拘置所(拘置支所を除く。)は、全国に8施設が設置されています。

• 拘置所に入るのは誰?
主として刑事裁判が確定していない未決拘禁者が拘置所に収容されています。つまり、まだ有罪とはなっていない被告人段階の人が、収容されているということです。
なお、被疑者が検察官に送致される際に、法務省が管轄する拘置所に移るのが原則です。しかし、拘置所の収容人数がいっぱいであることを理由に、実際のところは、起訴後に移送されているのが実情です(代用監獄と呼ばれる問題が発生する温床となっています。)。

• 無罪推定の原則の適用
未決拘禁者について、世界人権宣言 11 条 1 項は、「犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従つて有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。」と定めています。
また、国際人権規約B規約(自由権規約)は、「刑事上の罪に問われている者は、法律に基づいて有罪 とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。」(第14条第2項)と定めています。これを前提に、同規約は、「被告人は、例外的な事情がある場合を除くほか有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取扱いを受ける。」(第10条第 2項(a))とも定めています。
無罪推定の原則を前提に、「国際準則からみた刑務所管理ハンドブック」(アンドリュー・コイル著、(財)矯正協会)は、未決被収容者の法的地位について、「既決被収容者とは異なり、彼らは刑罰として刑務所に収容されているのではない。刑務所当局は、彼らのこの法的な地位が処遇や管理に反映されるよう努めなければならない。」としています。
このように、未決拘禁者は本来、無罪の推定を受け、刑事手続における一方の当事者として防禦権及び弁護人依頼権を有することから、刑事手続上、必要最小限の身体拘束を受ける以外は市民生活と同様の保障が必要とされる、とするのが国際基準です。
1955年、被拘禁者処遇最低基準規則が、第1回犯罪予防及び犯罪者処遇に関する国際連合会議で決議され、1957年国際連合経済社会理事会において採択されました。その後、2015年に、同基準規則が改正され、 同年12 月、国連総会において満場一致で採択されました。改訂被拘禁者処遇最低基準規則は、自由と人権を求める闘いの過程で 27 年間投獄された経験をもつ元南アフリカ大統領の栄誉を称えて「マンデラ・ルールズ」と呼ばれています。
マンデラ・ルールズは、法的拘束力のある国際約束ではなく、被拘禁者の処遇に際して実施するよう努力すべき内容ですが、日本も批准しています。

• 拘置所の環境は?
マンデラ・ルールズ10条は、「被拘禁者の使用に供する設備、特に就寝設備は、すべて健康保持に必要な条件全部を満たしていなければならず、気候条件及び特に、容量、最低床面積、照明、暖房、換気について適切な考慮が払われていなければならない。」と定めます。
しかしながら、未決拘禁者は拘置所の居室内に拘禁されていて、部屋の外に出られるのは運動、入浴、面会、出廷の時に限られます。欧米諸国に見られるような、共同活動室のような設備は我が国の拘置所にはなく、廊下に出すことすらできません。雑居房の場合は、終日1つの部屋の中に、複数の未決拘禁者が収容されていますから、プライバシーのない生活を強いられることになります。
また、例えば東京拘置所では冷暖房設備は設置されていますが、独居房・雑居房などの各部屋自体には設置されていません。筆者の経験でも、拘置所の接見室は凍えるほどに寒いです。独居房・雑居房も同様に寒いとのことで、度々コート等の差し入れを求められることもあります。
さらに、就寝時にも、電気が消えることはありません。被収容者は、明るい中で就寝することになりますが、顔まで布団をかけることも許されないため、なかなか寝ることができないこともあるようです。そのため、中には睡眠導入剤などの処方を求める者もいます。
また、マンデラルールズ11条は、「被拘禁者が生活し又は作業をしなければならないすべての場所において、(a)窓は、被収容者が自然の光線で物を読み、又は作業をするのに十分な大きさのものでなければならず、かつ人工的な換気装置の有無にかかわらず、新鮮な空気を取り入れられるように造られていなければならない。 (b)人工照明は、被拘禁者が視力を害することなく物を読み、又は作業をするのにも十分なものでなければならない。」としています。
しかし、いくつかの拘置所には、窓の外側に、窓の大きさ程度の白いプラスチック製の目隠しが取り付けられている房があります。目隠しが取り付けられている居室の場合は、室内からも外の風景は見えませんし、外の光や風もほとんど入りません。
さらに、マンデラルールズ15条は、「被拘禁者は、自己の身体を清潔に保つよう求められるものとし、このために被拘禁者には、水及び健康・清潔の保持に必要な洗面道具が支給されなければならない。」と定めています。
日本においては、『刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律』の第59条で、拘置所や刑務所などの刑事施設では、被収容者には保健衛生上適切な入浴を行わせる、『刑事施設及び被収容者等の処遇に関する規則』第25条は、一週間に2回以上、入浴を行わせると定めています。
もっとも、実際には、入浴回数は施設長の裁量で決められます。夏場は週に約2〜3回、冬場は週に約1〜2回しか入浴することはできないところもあります。また、1回の入浴時間は一般的に約15分となっていますが、そのうち3分はタオルで体を拭く時間です。したがって、実際の入浴時間は約12分にすぎません。さらに、刑務官によっては、10分程度でタイマーを止めて被留置者の入浴を止めてしまうこともあるようです。

• 食事の時間は?
マンデラルールズ20条1項は、「各被拘禁者には、施設から、通常の食事時間に、健康・体力を保ちうる栄養価を持ち、健康的な質の、かつ、十分準備された調理がなされかつ配膳された食事が与えられなければならない。」としています。
ところが、例えば東京拘置所では、食事の時間は約10分です。刑務官は各房を回って配膳をするのですが、配膳が終わったらそのままお椀などを回収してしまいます。したがって、被収容者は、他の房に食事を配膳する間しか、食事をする時間がありません。そのため、食べるのが遅いと、まだ全て食べ終わっていなくとも、お椀を下げられてしまうこともあるようです。

• 家族と会えるの?
ヨーロッパ人権裁判所及び人権委員会は、弁護人や家族との通信に課された制約のほとんどは無効であるとしています。
しかしながら現在、日本では、拘置所においても警察留置場においても、夜間や休日の一般面会は、ほとんど認められていません。東京拘置所では、午前8時30分から午後4時までが接見の受付時間となっています。家族等は通常、平日の昼間に仕事をしてます。そのため、仕事を休まなければ面会ができないことになってしまいます。
さらに、東京拘置所では、一般面会の時間は家族であっても1回20分に制限されており、かつ、面会室で刑務官立ち会いのもとで行われます。
2020年4月7日、日本国政府は改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、非常事態宣言を発令しました。これを受け、法務省は8日から、対象となる7都府県にある刑務所や拘置所などのすべての刑事施設38カ所で被収容者との面会について、弁護人などを除き、原則として認めない運用を始めました。これについては、2020年4月28日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、東京拘置所が弁護人以外との面会を認めないのは違法だとして、勾留中の男性被告が、面会禁止の取り消しを執行停止求めて東京地裁に提訴するとともに、面会禁止処分の執行停止の申し立てを行いました。少なくとも、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号。以下「刑事収容施設法」という。)111条および115条では、拘置所が、被収容者と親族との面会を一律に禁止することは許されていないので、面会禁止等の処分は違法なのではないかという疑いがあります。家族はいつだって対面し、近況を話し、同じ空気を吸うことができるはずです。拘置所がこれを合理的な法律上の根拠なく禁止することは許されないのではないでしょうか。

• 医療について
法務省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)は、被収容者が負傷し、又は疾病にかかったときなどには、刑事収容施設法の規定に基づき、原則として刑事施設内において当該施設の職員である医師等による診療を行い、必要に応じて、被収容者を刑事施設外の病院又は診療所(以下「外部医療機関」という。)に通院させ、やむを得ないときは被収容者を外部医療機関に入院させることができることとなっています。
しかしながら、実際には拘置所外で服用していたのと同様の処方薬を処方してもらえなかったり、外国人の場合にも常に通訳さんが入ってお医者さんに症状を説明してくれなかったり、拘置所外の病院に通院・入院させなかったり、させるのが遅かったりと、様々な問題があります。

• 小括
拘置所には、主として未決拘禁者といわれる、まだ有罪とはなっていない方が収容されています。そして、未決拘禁者については、必要最小限の身体拘束を受ける以外は市民生活と同様の保障が必要とされる、とするのが国際基準です。
入浴が12分程度、食事10分、家族にも自由に会えず、また医療も必要十分とは言えない生活を、市民生活と同様の保障がされている生活と言えるでしょうか。

【参考資料】
未決拘禁者の法的地位について、詳しくは『国連プロフェッショナル・トレーニング・シリーズNO.3「人権と未決拘禁──未決拘禁に関する国際基準ハンドブック」 』(国際連合、1994年)
(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/committee/list/data/data8.pdf)
未決等拘禁制度の抜本的改革を求める日弁連の提言(2005年9月16日)(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/committee/list/data/data1.pdf)

 

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