刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q9(外国人に対する捜査や裁判)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第9弾です。
こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。
法務省Q&Aの出典はこちらです。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm

動画はこちら。

【法務省の回答】

憲法第14条は、法の下の平等を保障しており、日本の刑事裁判においては、日本人と外国人を区別する法律上の規定はありませんし、差別的な取扱いはなされていません。
また、日本の刑事裁判は、憲法第82条により公開の原則が保障されており、国籍に関わらず、傍聴することができます。
さらに、捜査、公判のいずれにおいても、国語に通じない外国人の被疑者に対する取調べ等において、被疑者が黙秘権等の権利を十分に理解した上での主張を可能とし、公正な手続を担保するといった理由から通訳が付されています。
このように、日本では、被疑者・被告人の国籍に関わらず、法と証拠に基づいて捜査・公判が行われています。

【我々の回答】
法務省の回答のとおり、憲法や刑事訴訟法は外国人であっても公正な取調べや裁判を受けるための規定があります
しかし、日本において捜査訴追されるすべての外国人が、日本人と全く同じように捜査機関による取調べを受け、裁判を受けられているでしょうか。外国人事件だからといって、特別の捜査体系があるわけでも、特別の審理類型があるわけでもありません。日本人の被疑者や被告人と同様の人権保障を図るためには、通訳人の役割が非常に重要です。外国人の被疑者や被告人に、日本の捜査や裁判手続、彼らに保障されている権利内容を十分に把握してもらわなければ、防御を尽くすことなどできません。

通訳人について、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)に規定があります。以下、引用します(太字は引用者)。
第14条
1 すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
2 刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。
3 すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。
(a) その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること。
(b) 防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。
(c) 不当に遅延することなく裁判を受けること。
(d) 自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること。
(e) 自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。
(f) 裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。
(g) 自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないこと。

B規約14条3項(f)の趣旨について、規約人権委員会の一般的意見13(1984年4月12日採択)では,「3項(f)は、被告人は、裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受ける権利を有すると定める。この権利は、裁判の結果とは無関係であり、自国民のみならず外国人にも適用される。この権利は、裁判所によって使用される言語を知らないことや理解するのに困難なことが防御権の大きな障害となり得る場合において基本的な重要性を有する。」とされています。B規約では、弁護人依頼権、迅速に裁判を受ける権利、黙秘権などと並んで、通訳を受ける権利は非常に重要なものと位置づけられているのです。

我が国についてみますと、裁判所法74条は「裁判所では、日本語を用いる。」と規定しています。刑事訴訟法175条は「国語に通じない者に陳述させる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない。」と規定し、同法177条では「国語でない文字又は符号は、これを翻訳させることができる。」規定しています。通訳人に関する規定は以上のとおりです。捜査段階及び公判段階を問わず、通訳人に関して法律上の資格要件は課されていません。通訳人には、日本語及び外国語の高い語学能力が要求されることはもちろん、両国の文化や習慣にも通じており、さらには刑事手続に関する知識も必要とされます。適切な人材確保は非常に難しく、いかに確保していくかは重要なテーマといえます。

外国人の被疑者が公正な取調べを受けるために、警察庁や検察庁内部の職員ではなく、外部の通訳人を含む複数の通訳人による取調べへの同席を実現するのもひとつの手かもしれません。通訳人の人員確保の面から困難なようでしたら、外国人事件に関する取調べを全件録音録画することで、事後的に通訳内容に誤りがないかを検証するという方法もあり得ます。法廷通訳の誤訳を防ぐという点では、別の通訳人が公判を傍聴し、法廷通訳の適否をチェックするというチェック・インタープリターの同席を求める動きもあります(三井誠「来日外国人の刑事事件と通訳2」法教196号84頁など)。弁護人が被告人の話す言語を理解していない場合には法廷通訳が正確か否かを判断できず、即座に異議を述べることができません。弁護人に異議を判断する機会を与えるために、チェック・インタープリターを置くというのもひとつの方法でしょう。

いずれにしましても、言語の壁がある以上、外国人事件における通訳人による誤訳は避けがたい問題です。「通訳がいるから公正な取調べや裁判が実現できる」わけではないことを胸に刻んでおかなければなりません。

(参考資料)

日本弁護連合会 国際人権ライブラリーhttps://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights.html#liberty

現代裁判法体系-刑法・刑事訴訟法-第30巻 「外国人事件の処理」井上弘通

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