刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q13(有罪率99%の意味とは?)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第13弾です。
こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。
法務省Q&Aの出典はこちらです。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm
動画はこちら。

【法務省の回答】
日本では,起訴するかどうかを検察官が判断します。
最近の統計では,検察官が起訴する事件の割合は37%(起訴人員÷(起訴人員+不起訴人員))です。「99%を超える有罪率」という場合は,起訴された37%の事件が分母となっています。
検察当局においては,無実の人が訴訟負担の不利益を被ることなどを避けるため,的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴するという運用が定着しています。
こうした運用が有罪率の高さにも影響しているものと考えられます。

【我々の回答】
この解説は,検察官が起訴する段階で事件をきちんと選別しているため高い有罪率になるというのもので,あたかも高い有罪率は正当な権限行使の結果であるかのようにいうものです。
この解説は,検察官は63%の被疑者を,嫌疑がないとして起訴していないような印象を与えるものですがミスリーディングです。
法務省ウェブサイトで見られる最新のデータである平成29年の統計によれば,不起訴理由の内訳は以下のようになっています。

これによれば,不起訴の70.4%は起訴猶予(つまり,検察官として有罪の認定はするが,情状等,諸般の事情に鑑みて検察官の裁量により起訴しないとの処分)です。嫌疑不十分であるとして被疑者を起訴しないのは,不起訴人員のうち19.8%,被疑者全体から見れば約12.5%程度に過ぎません。検察官が確実に有罪の者だけを絞り込んで起訴しているというのは,この数字からすれば,疑問です。
また,仮に法務省の見解を前提としたとしても,この法務省の見解自体が正義にかなっているかは,別問題です。
まず,有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴するというのは,実際には罪を犯した人を起訴できていないという問題と背中合わせです。嫌疑が全くない人を起訴すべきかといわれればそうではないでしょうが,検察官として罪を犯した人であると考える人であれば,有罪獲得ができるかどうかが微妙であっても起訴した上,裁判で白黒をつける方が,公平ではないでしょうか。
この問題とも関わりますが,法務省の見解に対しては,裁判所をお飾りにしてしまうような見解であるという批判もできます。白黒わからないという場合には裁判で決着をつければよいのに,検察官が裁判官に成り代わって判断しているような構造になり,裁判がお飾りになってしまいます。しかし,もともと捜査機関であって公平な立場ではない検察官がこれをするのは,問題です。その結果,裁判所も有罪に慣れ「検察官が起訴したんだから問題ない」というような思考に陥る危険もあります。
法務省は,「無実の人が訴訟負担の不利益を被ることなどを避けるため」などとして検察官による起訴事件の選別を正当化するようです。しかし,これは議論が逆になっているといわざるを得ません。確かに,現在,逮捕された後は多くの事件で20日程度勾留され,起訴されればその勾留が続き,罪を否認していると保釈すらも出にくいという現状があります。このような中で,起訴されることはかなり大きな負担です。しかし,そうであるならば批判されるべきはそうした運用それ自体です。無罪推定の原則からすれば,否認している人がいつまでも拘束され続けているというのは問題が大きすぎます(これは,また別項で述べます)。
なお,先進的な諸外国には,逮捕された後に訴追するかどうかの判断に捜査機関に与えられる時間は24時間,その後は多くの容疑者が釈放,あるいは保釈されるという運用の国も存在します。
疑われた人は,無罪の推定のもと早期に釈放され,捜査機関によってではなく裁判によって白黒つけられるという制度設計の方が,裁判を受ける負担も少なく,公平な制度なのではないでしょうか。

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