刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q1(逮捕・勾留)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第1弾です。

こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。

ちなみに法務省Q&Aの出典はこちらです。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.html

次回もお楽しみに。我が国の刑事司法の問題を覆い隠そうとする法務省の見解に,徹底的に切り込んでいきます。

動画はこちら。

 

Q1  日本では,逮捕,勾留に当たり,どのような要件があり,誰が判断するのですか。

A1
【法務省の回答】被疑者の逮捕については,現行犯の場合を除き,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合に限って行うことができます。
この場合,捜査機関とは独立し,捜査には関与しない裁判官の発する令状によらなければできません。

【我々の回答】捜査機関が逮捕状を請求すれば、ほとんどの場合に裁判所は逮捕状を発付します。「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」は相当広く解釈されて、運用されているのが現状です(平成30年度司法統計(注1)によれば,90212件の逮捕状請求に対し,却下されたのはわずか57件です(ただし,請求の取下げが1194件))。独立した裁判官による令状審査というものはほとんど機能していないことから、裁判所は「令状自動発券機」と揶揄されています。法務省が発表する「捜査機関とは独立」しているなどというのは単なる建前にすぎず、現実とかけ離れています。

【法務省の回答】被疑者の勾留については,検察官が請求し,独立の裁判官が,犯罪の具体的な嫌疑があり,かつ,証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれ等があると認めた場合に限り,一つの事件について,10日間認められ,裁判官がやむを得ない事由があると認めた場合に限り,10日間を限度として延長が認められます。

【我々の回答】こちらも勾留や勾留延長に関する法律上の規定をそのまま載せたものです。単なる一般論であり、我々が問題視している「現実」の運用を看過しています。
そもそも「証拠隠滅のおそれ」や「逃亡のおそれ」が勾留の要件であるという記載自体が誤っています。「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」や「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」(刑事訴訟法60条1項2号及び3号)が正しい勾留要件です。
刑訴法60条1項2号と同文である刑訴法89条4号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、単なる証拠隠滅の可能性ではなく、「誰が見てもその資料に基づけば大体罪証を隠滅すると認められる場合」を指します。このことは、現行刑訴法制定の際の国会審議で政府委員が自ら説明するところであり(昭和23年6月21日及び24日、第2回国会衆議院司法委員会における政府委員の説明・同議事録37号5-6頁、同40号9頁)、その後この解釈は変更されていません。抽象的な「おそれ」だけで勾留を認めてしまってはいけないと立法者は考えていたのです。
法務省は、罪証隠滅や逃亡の「おそれ」があれば勾留は認められてよいと発表しています。ここに法務省が勾留の要件に対する理解を欠いていることが端的に表れています。そんなに簡単に勾留が認められてはいけないのです。
そして,平成30年度司法統計(注1)によれば,98544件の勾留状の請求に対し,却下されたのは6169件にとどまっています。文言に沿う厳格な運用が果たしてなされているのか,疑問なしとしません。

【法務省の回答】複数の犯罪を犯した疑いがある場合に,それぞれの事件ごとに,逃亡や証拠隠滅を防止しつつ十分な捜査を遂行するため,裁判官がその必要を認めて許可したときには逮捕・勾留することができます。その結果として身柄拘束が続くこともあります。

【我々の回答】事実上1つの事件であっても、捜査機関が罪名ごとに分断して、犯罪事実ごとにひとつひとつ逮捕・勾留を繰り返していくことがよくあります。たとえば、違法薬物の密輸事件では、ある人物が海外から違法薬物を密輸したという1つの事実を疑われている場合でも、捜査機関は2度3度と逮捕・勾留を繰り返します。麻薬特例法違反、覚せい剤取締法違反など犯罪事実を意図的に区切ったうえで、ひとつずつ逮捕・勾留していくという事案を目にしたことは何度もあります。逮捕・勾留が繰り返された結果、その人物が密輸について全く事情を知らないことがわかった場合、検察官は全件について不起訴にします(多くの場合、1回目の逮捕勾留期間中に必要な捜査はほぼ終わっています)。誰かに利用されて、意図せず密輸を手伝わされた無実の人間であっても、逮捕・勾留が繰り返されることで、少なくとも50日近く身柄を拘束されてしまうのです。
このような事件の切り分けによる逮捕・勾留は、刑事訴訟法が定める身体拘束期間を意図的に潜脱するものでしょう。法務省がいうように「結果として」身体拘束が続くのではなく、最初から捜査機関によって「意図的に」身体拘束期間が延ばされているのではないかと思うのです。

注1 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/615/010615.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です