刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q2(起訴)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第2弾です。

こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。

ちなみに法務省Q&Aの出典はこちらです。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm

動画はこちら。

 

Q2  検察官は,犯罪の嫌疑もないのに,自らの判断だけで逮捕し,有罪とすることはできるのですか。
A2

【法務省の回答】警察,検察等の捜査機関は,現行犯の場合を除いて,捜査に関与しない中立の裁判官が具体的な犯罪の嫌疑,証拠隠滅や逃亡のおそれがあると認めて令状を発付しなければ,被疑者の身柄を拘束することはできません。
起訴後の公判前整理手続においては,検察官は,被告人側に対し,公判で請求する証拠以外にも,どのような証拠を保管しているかを記載した一覧表や,被告人側の主張に関連する証拠など,被告人側の防御活動に必要な証拠を開示することが刑事訴訟法で定められています。
そして,日本では,憲法第82条において,裁判は公開で行う旨定めており,検察官の主張・立証を含む当事者の訴訟活動は,誰もが傍聴できます。
裁判所は,立証責任を負う検察官の立証に加え,被告人側から提出される主張や証拠をも十分に吟味し,独立した公正な立場で判断します。
また,その判断を後に吟味することができるように,判断の理由については,判決書において示すことが求められています。
このように,日本の刑事手続では,検察官は,犯罪の嫌疑もないのに,自らの判断だけで逮捕することや,有罪とすることはできない仕組みになっています。
【我々の回答】質問の趣旨がよくわかりません。検察官が,犯罪の嫌疑もないのに自らの判断で逮捕し,有罪とすることができるのであれば,それはもはや法治国家ではありません。質問について議論の余地がないわけですから,このような質問を作った意図を理解しかねます。
回答も,法律上規定されている手続を羅列しただけのものであり,捜査や裁判の現状を伝えるものではありません。
この質問に関する実質的な問題提起をするとすれば,法務省の回答にあるような法律上の手続や建前にもかかわらず,検察官の判断で有罪とされるような実態になっていないか,という点でしょう。
この点について,平成30年の司法統計によれば,検察官によって第一審の正式裁判が提起された事例のうち,地方裁判所においては総数49811(総数68163件のうち併合事件を除いた数=判決の数)のうち無罪判決の件数は105件,簡易裁判所においては同5049件のうち無罪判決は4件で,約0.02%の無罪率(有罪無罪以外の判決件数を加味しても,有罪率は約99.8%)となっています。このような数字の下で,裁判所が「独立した公正な立場」で、検察官と弁護人双方の主張を吟味しているのかは冷静に考えてみる必要があるでしょう。起訴するかどうかは検察官の判断にゆだねられていますが,捜査機関としての一方当事者である検察官にミスが(ほとんど)ないなどと言い切れるでしょうか。検察官が起訴しただけであるにもかかわらず,有罪率99.8%という数字になるのは、検察官の力があまりに強大であり、裁判所が正しく機能していないことを如実に表しています。
なお,有罪率に関する法務省の見解は,Q13に記載されています。検察官は有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に限って起訴する運用が定着しているという立場のようですが,その当否は,Q13に関する機会に,我々でも考察する予定です。

次回は, 日本の刑事司法は,「人質司法」ではないですか です。

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