刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q3(人質司法)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第3弾です。

こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。

ちなみに法務省Q&Aの出典はこちらです。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm

動画はこちら。

 

Q3  日本の刑事司法は,「人質司法」ではないですか。
A3

【法務省の回答】「人質司法」との表現は,我が国の刑事司法制度について,被疑者・被告人が否認又は黙秘している限り,長期間勾留し,保釈を容易に認めないことにより,自白を迫るものとなっているなどと批判し,そのように称するものと理解しています。
しかし,日本の刑事司法制度は,身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず,「人質司法」との批判は当たりません。
日本では,被疑者・被告人の身柄拘束について,法律上,厳格な要件及び手続が定められており,人権保障に十分に配慮したものとなっています。
すなわち,日本の刑事訴訟法の下では,被疑者の勾留は,捜査機関から独立した裁判官による審査が求められており,具体的な犯罪の嫌疑を前提に,証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合等に限って,認められます。
また,被疑者は,勾留等の決定に対して,裁判所に不服申立てをすることもできます。
起訴された被告人の勾留についても,これと同様であり,証拠隠滅のおそれがある場合などの除外事由に当たらない限り,裁判所(裁判官)によって保釈が許可される仕組みとなっています。
その上で,一般論として,被疑者・被告人の勾留や保釈についての裁判所(裁判官)の判断は,刑事訴訟法の規定に基づき,個々の事件における具体的な事情に応じて行われており,不必要な身柄拘束がなされないよう運用されています。
日本の刑事司法制度は,身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず,「人質司法」との批判は当たりません。

【我々の回答】はい。「人質司法」です。被疑者や被告人が否認や黙秘をしている限り身柄拘束が長期化することは、紛れもない事実です。被疑者が被疑事実を否認していた場合は、勾留されることがほとんどです。そもそもの勾留請求却下率が低いことは,本シリーズQ1で記述したとおりですが,被疑事実を否認又は黙秘している場合,検察官はこれを勾留請求の理由とするのが通常ですし,裁判所も勾留を認めるのが大半となっています。
裁判所は、被疑者が被害者や共犯者と口裏合わせをしたり、逃亡したりするのではないかと疑うのです。否認事件において身体拘束に不服を申し立てた場合,裁判所は「被疑者の供述状況に鑑みれば」などと決定書に記載して,否認や黙秘をしていることを被疑者に不利益に考慮しています。勾留決定等に対する不服申立てが認められる可能性も極めて低いのが現状です(※1)。
法務省の回答は,法律上認められた手続を解説しているだけですが,ここでの問題は,こうした法律上の権利保障にもかかわらず,被疑者が否認ないし黙秘をしていることにより,身体拘束が長引いたり,不利益に取り扱われたりしていないか,という点です。これに対する答えは明確に是です。
被疑者は、密閉された空間の中で、弁護人の立ち会いなく、取調官からの詰問にひとり耐え続けなければなりません。被疑者が否認したり黙秘権を行使した場合には、捜査機関は被疑者に対し「否認していると早く出られないよ」「黙秘していると外に出られなくなるよ」「早く認めたほうが外に出やすくなるよ」などと被疑者の不安を煽り、自白を迫ります。厄介なのは,上述したような裁判所の運用によれば,この捜査機関の言葉は嘘ではないということです。被疑者はますます孤立し、(たとえ本当は無実であっても)自白をするしか外に出られる方法はないという心境に追い込まれてしまうのです。
身柄拘束が長期化する中で、捜査機関は、被疑者や被告人に対して、自白をしなければいつまでも外に出られないかのような言葉を浴びせ掛けます。歪んだ刑事司法制度の中で彼ら彼女らは心身ともに疲弊させられ、時に虚偽の事実を自白させられてしまいます。こうした虚偽の自白を重要な根拠として有罪となり,のちに再審(裁判のやり直し)によって無実が明らかになり無罪となった事件が,近年でも数多く報告されています。裁判所の運用の実態を考えれば,こうして無実が明らかになる事案は,実は氷山の一角に過ぎないのではないかという疑念を抱かざるを得ないものです。
「人質司法」は現に我々の目の前に存在しているのです。

※1 平成30年司法統計によれば,準抗告1万3263件中,認容は2541件。ただし,ここにいう「準抗告」は勾留決定に対するもの以外の準抗告もすべて含み,検察官の準抗告をも含むため,あまり参考にならない。なお,勾留,保釈など特定の場面について,否認事件に特化したデータは存在しない。

次回は, 日本では,長期の身柄拘束が行われているのではないですか。 です。

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