刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!Q11(保釈後の家族との面会)

Youtube「刑事弁護人が法務省のQ&Aを斬ってみた!」シリーズ,第11弾です。
こちらのページでは,動画内では解説しきれなかった情報や,より詳細な解説をご覧いただけます。
法務省Q&Aの出典はこちらです。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.htm
動画はこちら。

【法務省の回答】

保釈中の行動は、原則として、自由であり、家族に会うことも自由です。家族と会うことができないのは、保釈中に裁判所が被告人の逃亡や証拠隠滅を防止するために必要であるとして接触を禁止する例外的な場合に限られます

【我々の回答】

 この回答は、形式論としては間違っていません。保釈中の行動はもちろん原則として自由です。保釈中の行動を制限する根拠となるのは、刑事訴訟法第93条3項・96条です。正当な理由なく出頭しないとき等の事由のほか、裁判所が保釈を許可する際に定めた条件に違反したことも、取消しの原因事由とされています。保釈条件に反しない限りにおいて、保釈中の行動は自由です。保釈の条件として、家族との面会自体が禁止されることは、件数としては決して多くありません。
 しかし、この回答とは別のところに問題があります。保釈中に家族に会えない事案の割合は多くはなくとも、起訴前後を通じて勾留中に家族との面会が禁止されるケースは非常に多いです。保釈がなかなか認められない現状と相まって、強度の人権侵害が生じています。接見禁止が非常に容易に認められてしまう、特に否認事件では顕著であるという点は、日本の刑事司法の大きな問題点の一つです。裁判官の一人は以下のように述べます。
 「検察官が接見等禁止(註:面会だけでなく文書のやりとりなども禁止することです。)を求める場合、被告人が少年であるとき等一定の場合をのぞき、罪証隠滅等のおそれがない一部の者を除いて接見等禁止を求めてくることはまずなく、裁判官としても迅速に判断する必要がある以上、特定の親族等を対象から除外する必要性、相当性等を充分把握できる状況になく、そうした必要性がある場合には事後的に被疑者被告人側からの一部解除の申請を待って判断できることから、接見等を全面的に禁止する扱いが多いと思われる」(「令状に関する理論と実務」231p)。
 接見等禁止の裁判をどのように行うべきかについて述べた論考ですが、これは単に一裁判官の意見を述べたものとは思えません。多くの裁判官の考え方を端的に表しているのではないでしょうか。要するに、検察官が接見等禁止を求めた場合、裁判官はあえて家族、親族などを接見等の禁止対象から除外するということはなく、まず全面的に禁止します。弁護人が資料を集め、事情を聴取し、家族や親族については接見等を禁止する必要がないことを疎明して初めて、接見等禁止を解除するかどうかが判断されているのです。このような運用の背景には、裁判所が、身体拘束をされた者が家族と面会する利益をそもそも極めて軽視している―検察官の主張する罪証隠滅の危険性を過度に重く評価している―という現状があります。
 本HPで取り上げている法務省のQ&Aに、勾留中に家族との面会が禁じられることについては、何ら問いも答えも立てられていません。実務上問題になることが多く、いくつもの文献や論文で問題提起されているにもかかわらず、なぜ法務省は勾留中の接見禁止の問題を取り上げなかったのでしょうか。なぜ法務省は、「日本では、 保釈されても家族に会えない場合があるのですか。」などという答えが明らかな質問を立てて、「家族と会うことができないのは***例外的な場合に限られます」などという建前を述べたのでしょうか。
 それは、カルロス・ゴーン氏の件で、同氏と妻の面会が禁止されたことに対する、海外の批判をそらしたいという狙いでしょう。しかし、そもそもカルロス・ゴーン氏の件についても、妻との面会等を一切禁止した裁判所の決定が本当に正しいのかは十分に吟味されなくてはなりません。カルロス・ゴーン氏の弁護人だった高野隆弁護士は、自身のブログに、夫婦間の接触禁止を保釈条件とする保釈許可決定に対する準抗告申立書の内容を載せています。保釈条件として、被告人が直接間接を問わずその配偶者と面接、通信、電話等を含む接触をすることを一切禁じることは、国際人権規約第17条第1項(「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない」)に反すると主張しています。弁護人立会いのもとで電話をするなど、証拠隠滅を防ぐための効果的な方法はいくらでもあります。個人の尊厳の基礎となる家族・夫婦の交流を例外なく一律禁止する決定が果たして正しいのか。国際人権規約17条1項違反について何ら判断することなく、準抗告を棄却し、さらに特別抗告も棄却した裁判所の態度は本当に正しいのか。法務省のように、わかりきった形式的な回答を「自作自演」することなく、我々は法と権利について真摯に向き合わなければなりません。

 カルロス・ゴーン氏の件から離れて、ごく普通の事案であっても、長期にわたって継続する勾留期間中に、家族の顔さえみることのできないという重大な権利侵害が横行しています。一切の例外なく、家族との面会を禁止する。法務省はこの問題に真摯に向き合い、回答するべきではなかったでしょうか。本来取り上げるべき問題から目をそらし、実務上稀な事例を取り上げて、殊更「そのようなことはありません」と否定して見せるというのは、誠実な回答ではありません。

高野隆弁護士ブログ
『夫婦間の接触禁止を保釈条件とする保釈許可決定に対する準抗告』
http://blog.livedoor.jp/plltakano/archives/65943708.html

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